かみがき法律事務所のお知らせ

2022.07.17更新

特定の月の勤務実態から他の月の休憩時間における労働状況を推認した例

(東京地裁 平成30年9月20日判決)

 

1 事案の概要

  美容外科クリニックを経営する被告と、当該クリニックの各医院において医師として稼働する契約を締結していた原告が、雇用契約に基づく未払賃金及び時間外割増賃金を請求した事案

 

2 判決の概要

 (1)原告の労働者性

   ①報酬は、勤務日数に対応して支払われており、また、所定の日数を勤務した場合には定額で支払われることとされており、売上げの増減に応じて基本給が増減するといった危険を原告が負担することはなかった。

   ②診療日や診療時間について原告自身が決定していたなどの事情は認められず、予定された出勤日に診療行為を行うか否かについて諾否の自由があったとはいえない。

   ③原告は、当該クリニックに備え付けられた器具等を用いて業務(美容整形術の施術等)を行うものとされていた。

  以上より、原告は、労働基準法9条の「労働者」に該当する。

 (2)時間外労働(休憩時間の労働)に対する未払賃金の有無 

 原告が最も繁忙であったと考えられる平成26年の12月に業務が繁忙で1日1時間の休憩が取れなかったと認められる日は、原告が診療を担当する1日当たりの患者数が8名以上の日であり、少なくとも1日当たりの患者数が7名     に満たない日に1日1時間の休憩時間を確保できない事態が生じていたとは認め難いから、本件請求対象期間におけるその余の月においては、各月ごとに、1日当たりの診察患者数が7名以上になる日の日数に応じて、同月との繁忙度を比較し、これを基に、原告が休憩を取得することができなかった時間数を推認するのが相当である。以上の方法により認定した休憩時間を取得できなかった時間数の時間外労働に対する割増賃金額を算定する。

投稿者: かみがき法律事務所

2022.07.17更新

 婚姻費用を支払う側が失職した場合に収入を0とせず、潜在的稼働能力を有するとして平均賃金等で収入を擬制する場合がありますが、

どういった場合に擬制するのかについて参考となる判例を紹介します。

 

 婚姻費用の算定に当たり,失職した義務者の収入について,潜在的稼働能力に基づき認定することが許されるのは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないものと解されるとした上で,上記の特段の事情があるとは認められないとして,原審判を取り消し,申立てを却下した事例
(東京高決令和3年4月21日 婚姻費用分担審判に対する抗告事件)
(参考)原 審 宇都宮家庭裁判所令和2年12月25日審判

投稿者: かみがき法律事務所

2018.06.23更新

配転命令の有効性に関する裁判例をご紹介します。

 

大阪高裁平成27年11月19日判決(テーエス運輸ほか(配転)事件です。

 

前提知識として、配転が有効とされるには、

①配転命令権が労働協約や就業規則の定めなどによって根拠づけられている必要があります。

②業務上の必要性がないとき、不当な動機・目的によるものであるとき、労働者に通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるような権利の濫用にあたらないことが必要です(東亜ペイント事件判決)。

 

今回ご紹介する判例では、以下のとおり、配転命令は有効と判断されました。

 

1 事案の概要

 運輸会社(以下Y社」)に雇用されている運転手であり、労働組合の役員であった労働者(以下「Xら」)が、配転命令を受けた。Xらは、かかる配転命令は違法であり、従前の営業所での就労に従事しようとしたところこれを拒否され就労できなかった期間を欠勤扱いとされ、賃金等の一部が支払われなかったと主張して、従前の営業所で勤務を継続していた場合との賃金差額等を請求した原審の控訴審。

 

2 争点

①本件配転命令が不当労働行為(労組法7条)に該当するか。

②配転を拒否して不就労となったことは、労働者に帰責すべき休業といえるか

 

3 判旨

Ⅰ ①について、Xらは、当該配転命令は、不当な目的をもってなされているため不当労働行為に当たり無効であると主張する。

 確かに、本件配転命令により勤務地が変更になることで、Xらが中心的人物となっている労働組合の活動に少なからぬ影響が出ることは避けられない。しかし、両営業所間は鉄道で2時間ほどの距離であり、昨今の通信方法の発達を考慮すると、不当労働行為性を帯びるほどの著しい不利益を課すものとはいえない。

 したがって、本件配転命令は不当労働行為に該当せず、有効である。

Ⅱ 本件配転命令について、Xらが配転命令先の営業所に勤務すべき労働契約上の義務がないことを認める仮処分決定がなされているところ、当該仮処分決定がY社に告知された後であっても、Xらが元の営業所において労務の提供をすることは債務の本旨に従った履行の提供とはいえない。そのため、Y社がこれを欠勤扱いとしたことは違法とはいえない。その後の本案訴訟(控訴審)で本件配転命令が有効と認められれば、当該仮処分は遡って無効であるからである。

 

投稿者: かみがき法律事務所

2017.08.16更新

 当事務所においても飲食店勤務の従業員から、残業代を請求したいというご相談をよく受けます。

 残業代を請求するタイミングで多いのは、退職時に行う場合が多いです。

 自主退職のみならず、解雇された場合に不当解雇を争うと共に、残業代を請求するケースがあります。

 今回、飲食店で調理師して勤務していた方が懲戒解雇され、不当解雇を主張すると共に、未払い残業代及び慰謝料の支払いを求めた裁判例をご紹介します。

 何点か争点が存在しますが、その中でも着目すべき点は、労働者が長時間労働により具体的な疾病を発症していないにもかかわらず、使用者に対し、安全配慮義務違反を理由に慰謝料として30万円の支払を認めている点です。

 この点では、1つ参考になる判例です。時間外労働を適法に行うための法令の定めを遵守せず、毎月概ね80時間を越える長時間労働を放置し、労働者を危険な状態においた場合には、慰謝料が認められることを示す1つのケースです。

 当事務所では、長時間労働が常態化している事案に対しては、未払賃金のみならず、慰謝料を請求しています。

 以下に事案の概要及び判決の要旨をお伝えします。

 

(無洲事件 東京地裁 平成28.5.30判決)

 

1 事案の概要  飲食店経営等を行う被告会社(以下、「Y社」という。)において調理師として勤務しており、Y社から懲戒解雇された原告(以下、「X」という。)が、時間的に近接した先行シフトと後行シ  フトを連続した「1日」の労働であるとして時間外勤務により発生した未払割増賃金、Xに対し月間80時間を超える時間外労働に従事させた点にY社の安全配慮義務違反による損害賠償及び違法な懲戒解雇にかかる不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を求めた裁判例。

  

2 判決の概要

・深夜0時をはさんで先行シフトと後行シフトが隣接していれば、連続勤務として判断され、連続勤務だとすると時間外勤務となり割増賃金が発生するため争点となったところ、1勤務が2つの暦日にまたがる場合であっても、①各シフトの間に4時間の中断があること、②当該中断時間が、労働から解放された時間であったと認められること、③仮眠設備の存在が、事業場に宿泊する義務の存在を意味するわけではないこと、④当該中断時間が深夜であり、自宅への公共交通機関がないというだけでは拘束時間であったとは認められないことを理由に、異なる暦日の勤務であったと判断した。

 

・使用者は、労働契約上の付随義務として業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等により労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意すべき安全配慮義務がある。

Y社においては、約1年余りの間、三六協定も締結せず、Xを毎月概ね80時間以上の時間外労働に従事させ、タイムカードの打刻打刻時刻から窺われるXの労働状況について上記義務を履行するための措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はなかったため、Y社につき安全配慮義務違反の事実が認定され、XのY社に対する安全配慮義務違反を理由とする慰謝料相当分30万円の損害賠償請求が認められた。

 

・使用者が労働者を懲戒するためには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくのみならず、当該就業規則の内容を、その適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きを採る必要があり、周知がされていない本件就業規則の定めに基づく本件懲戒解雇は、手続き規制に違反するため無効である。

 

・手続き規制違反による懲戒解雇の無効が、当然には不法行為を構成するとの結論を導かない。懲戒解雇の理由となったX自身の非違行為の存在が認められるため、不法行為が成立するほどの違法性はないと判断し、不法行為に基づく損害賠償請求は認められなかった。

3 実務上の留意点 

  労働者としては、違法に長時間の労働を放置している使用者に対しては、時間外労働部分の未払賃金のみならず、慰謝料の請求も検討すべきである。

  使用者としては、時間外労働を三六協定等適法に行うことはもちろんのこと、時間外勤務を常態化させず、改善策を講じる必要がある。

 

投稿者: かみがき法律事務所

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